ファム・ファタールの清怨

ブログの文章は全てフィクションです。

4月30日午前2時頃

私は事実としてバニラの匂いのするタイニーな女だけど、高校生の時願った"バニラの匂いのするタイニーな女"にはなれなかった。

 

aikoの二時頃という曲がある。

好きな人に電話したら男は彼女が寝てる横で話してたという憎しみしかわかない曲で、そいつの女が"バニラの匂いのするタイニーな女の子"だという。

このフレーズは電撃のように高校生の私の脳みその深い所に染み込んで、歳を経てもたまに強い衝撃を与えると滲み出てくる、例えばこんな時。

 

元彼の今カノを見つけた。

隠されていた訳でもなく見ないようにしていただけだったので、ふと彼のことを思い出した瞬間にその女は現れた。

口数が少なそうな女だった。

先月LINEしてきた元彼が彼女と一緒に飼っていると私に言った動物の写真がたくさんと、私が何度も頬を寄せたセットアップが吊るしてある男の部屋を背景に撮られた自撮り。去年の11月から付き合っているらしい。ショートカットの横顔、DIOのホクロみたいに並んだピアス。男の手。知っている赤いニット、シャツ、去年から変わらない服。

インスタは小動物とベージュと自然、酒。

いかにもお前の好きそうな女だね。私の対極にいる女。

裏側の配線は酷く手が込んでいるくせにシンプルなデザインのパソコンみたいな女。

きっと誰かの移り香じゃない煙草の匂いがするだろう。

 

彼に電話をかける「あたし」は、本人に会ったのか、彼からバニラの匂いがしたのか、彼女がバニラの香水を、ボディクリームを使っているのを知ったのか、どれでもいいのだけど。

枕と服と髪と、脳の奥からバニラの香りのする私は二時頃それと反対側にいる。