ファム・ファタールの清怨

ブログの文章は全てフィクションです。

重み

押し付けられた陰部の形とか、熱とか、そういうのがずっと太ももに残っている気がする。


”Your lipstick stains on the front part of my Left side brain"

こびりついてるのが口紅ならよかったのにね、私の一番好きな曲でオナーを踊っていたのが、あまいや、いやでも、つらいや、グッバイできたらね。

 

執着ごと頭を掴まれて、耳の中に射精されたみたいに、左脳にへばりついた欲望が落としきれないまま1年が経ち、いやもう少し経った。

小さい頃、ビー玉やおはじきや、ガラスの細工が好きだった。

偏食で色や匂いのついている食べものが大嫌いだったので、寒天や豆腐、氷砂糖、ゼリーと並んで好きだった。今もいまいち食欲と愛欲の区別がつかないのはそのせいかもしれない。

暗く冷えた夏の昼過ぎ、フローリングに腹ばいになって、薄ガラスのモビールが冷房の風に揺れているのと、手に握ったおはじきの青、朱、透ける乳白色。

あんまり綺麗についたその色を舌に乗せたら甘いような、苦いような。試してみたいような気がして、流水で冷やして隠れるように口に含んだことがある。

ガラス玉 口に含んで飲まないでおくような恋 嘘はバレない

甘みも香りもなく「ただそこにひんやりと存在する」なんだかよくわからないかたまりは、仄かな衝撃を孕んだ少しの重みで舌を押した。

飲み込む勇気はないのだけど、でも口に含んだのを見付かって怒られるのが恐ろしくて、ぬるく居心地が悪くなっても出すことが出来なかった、

 

完全にぬるくなってしまった感情は、幼い頃のおはじきのように、しかし叱られることはなく、いなくなってしまうことへの恐怖を伴っていつまでも口の中にいた。

砂糖ならじわじわ溶けて記憶みたいに吸収できるだろうに、4年かけて固めたガラス玉はつるりとして角もないまま、咀嚼にも苦労する場所に鎮座している。溶けることの無いそれを飲み込んでしまったらもうそれは一生で、底知れず怖い。飲み込むことが大人なのだろうか、わからないけれど、

一緒にいて欲しいと叫んで泣いてしまいたかった。こんなにも、心の中では大木を倒すような風が吹き荒れていても、本人にはそれは言えずに、ずっと好きだよお、もう付き合えないけどね、復縁はないよね、お互いにそうなんだよね、と扉の前に少しずつ本を積み重ねて、もう外に出られないほどの重しになってしまった、この本はどこから来たの、あなたの部屋ですか。あなたはどこにでも行けるんですか。

開かない扉の前でガラス玉をくわえて、無力な子供のままでいるのは可哀想ですか。

フローリングは腹ばいになるにはもう冷たすぎて、

可哀想だと思われることだけが、本当に、ただただ苦痛だ。