ファム・ファタールの清怨

ブログの文章は全てフィクションです。

汚れる肺と鰓

副流煙、 という文字を見るたびに去年の、いや一昨年の12月、大きな手に頬を包まれてそっと唇に吹き込まれたブラックスパイダーの煙を思い出す。浅葱色の箱に黒い英文、少し尖ったお酒の匂いもしたかもしれない。わからない。なにせもうずっと前のことなので…

4月30日午前2時頃

私は事実としてバニラの匂いのするタイニーな女だけど、高校生の時願った"バニラの匂いのするタイニーな女"にはなれなかった。 aikoの二時頃という曲がある。 好きな人に電話したら男は彼女が寝てる横で話してたという憎しみしかわかない曲で、そいつの女が"…

追う

もしかしたら本当に好いてくれているのかもと思った。 ペラペラの布団にお風呂も入らずに転がっている彼は寝ているのか起きているのかもわからない。 付き合う前に彼にプレゼントした、金のマニキュアは光の加減で少し緑色にもさ見えた。 彼のマニキュアを勝…

ホテルアイビー 5階

二人で幸せになるか、二人揃って不幸になるか、どっちかなのよ (江國香織「思いわずらうことなく愉しく生きよ」より) どうせ無理だった。 ×が別れるなら俺も別れる、なんて、使い古された嘘を誰が信じるだろう。 酒を飲んで泣くのは私も彼も同じで、ジョッキ…

重み

押し付けられた陰部の形とか、熱とか、そういうのがずっと太ももに残っている気がする。 ”Your lipstick stains on the front part of my Left side brain" こびりついてるのが口紅ならよかったのにね、私の一番好きな曲でオナーを踊っていたのが、あまいや…

学生時代に力を入れたことを教えてください

喧騒の中声を聞いた新宿。 執着と手垢で駅名が読めないほどの池袋、 手の甲しか触れ合えなかった丸の内、 キスだけはできた山手線ホーム、 抱えられた腕が華奢で笑みがこぼれた恩賜公園、 霞むほど遠くても襟足でわかる大久保通り、 喉がからからに渇くほど…

初めて煙草を吸った日

「ーーさんは煙草なんか吸わない方がええね」 男の影がすごいから、と冗談めかして笑う人の煙草の火を灰皿で丁寧に消す仕草があんまり魅力的で、もう一本分だけどうしても見てみたくて、話なんか全然聞いていなかった私はねえそれ私にも1本頂戴とねだってし…

無い

日付の記載なし 全ての時間に値段はつけられるけれど。 首都高を駆け抜ける赤いライトがハイヒールの遥か下で滲むハイアットのバーカウンター。ガラスケースが内側から曇らないように息を潜めて並ぶ宝石達の値札を眺める時よりも、朝日の差し込む歌舞伎町の…

はず

女の空洞について考える。 女は体に空洞を抱えて生まれる。 これはどうしようもない事実だと思っていて、うまれついての性質で、空がうすい青から朱に変わって次第に暗くなっていくように、誰かが定めた訳では無いけれどそういうふうになっているのだと思う…

排水溝

長く浸かるにはぬるくなった湯船の中で、声がどこかにこぼれてしまう気がして、電話口に縋るようにいつか会う予定を、週末会う予定を、水曜日に会う予定を囁き合った。 午前2時16分。 授業のあとに星を見に行きたくて、いつの間にか飲みになって、そして気づ…

12月某日

手紙の下書きを見つけました 頬を撫ぜる風がどこか煙るような匂いを潜らせて過ぎていきます。12月も半ばになりました。冬です。 先日、エレベーターに乗ると女子高生が前に立っていました。白い靴下に木の葉のかけらがついていました。煤けたフェルトが貼ら…

自意識

11月7日(火) Pan!c at the discoというバンドを教えて貰った。家が遠い私の早い終電までの時間、高田馬場の冷たいベンチで、ひとつのイヤホンをふたつに割いて聞いた。肩を寄せあって聞く曲は半分だけのはずなのに、ひとりで聞くそれよりもずっと心に残るの…

「全然覚えてない」

9/27(水) なんの話をしていたか忘れたけど、「ちょっと考えすぎなんだよ」と彼は朗らかに言った。 なんの話をしていたかは覚えていないけど、確かに水曜日の朝11時だった。 炭酸の抜けたコーラのグラス。肩が擦れるほど近くに座るおじさんの社員証。 考えす…

4/13(金) 気がついたら布団の中にいた。 顔を埋めるたくさんのクッションのフリル。 大きな抱き枕は誕生日の贈り物で、髪の水気を少しだけ吸ってL'OCCITANEの香りのするタオルがしっとり冷たくて、黒いパイプベッドの柵にかかっている。薄いガラスのモビール…