ファム・ファタールの清怨

ブログの文章は全てフィクションです。

12月某日

手紙の下書きを見つけました

 

 

 

頬を撫ぜる風がどこか煙るような匂いを潜らせて過ぎていきます。12月も半ばになりました。冬です。

 

先日、エレベーターに乗ると女子高生が前に立っていました。白い靴下に木の葉のかけらがついていました。煤けたフェルトが貼られた壁に寄りかかる彼女はプチシリーズのうす塩味のポテトチップスを小さなつめでつまんで唇に運んで、そしてかさかさと音を立てて咀嚼していました。私は芋が好きです。ホクホクとしてなめらかで塩っけとよく合う甘みが好きです。芋。芋といえばじゃがバター。プラスティックのパックにヘラで擦りつけた、外側がパリパリしたじゃがいも、缶入りバターをスプーンですくって上でとろけさせる、お祭りの夜。今年の夏はあなたと食べました。浴衣の肌触りと日焼け止めの香りを覚えていますか。私はこんな些細なことであなたを思い出して、暖かく、寂しくなります。大好きです。

もうじき二人で過ごして九か月になりますね。毎日は会えないけれど、会えない日はこんなふうに日常に散りばめられた記憶が心と指先を暖めてくれます。この距離はヤキモチを妬いてしまうことも多いけれど、でもそばにいるよりあなたを考えているのかもしれない。

たくさん心配かけてごめんなさい。× のおかげですごく私はいい方へいい方へと歩いていっています。× のおかげです。いつも正してくれて、支えてくれてありがとう。私もあなたを支えて癒してあげられる女の子になれるように努力します。

写真フォルダを見返すと数えられないくらいの思い出がぎっしり詰まっていて、なんだかすかすかしていた最近の私が埋まっていく気分です。

× がいま新しく与えてくれるものに縋りすぎていたのかもしれない。振り返れば× は私が困った時や辛い時、いつも優しく甘く包んでくれて、それにいつも助けられていたのに。

はじめておてがみしたとき今日という大事な日を積み重ねていつかは道ができますように、と書いたのを覚えていてくれるかな。

今×がこの場にいなくても、わたしのことを好きでいてくれて大事にしてくれているのを当たり前に信じられること。

ふとした時に昔のことを思い出せること。

× が私に作ってくれた道なのかなと思う。

本当にありがとう。愛しています。心から信じています。

× は私と過ごした日々を覚えていますか。

忘れてる気がするな。でも確かお祭りの時の写真をロック画面にしてくれているし、だから、私がふとした時に思い出すより確実に夏のことを思い出してくれてるのかもしれないね。ああ、いつも言葉より態度で愛してくれてありがとう。大好き。

もっと区切りのいい時におてがみすればよかったんだけど、でも今伝えたくて。

 

ところでこの手紙は電車の中で書きました。この暖かい気持ちのまま、これからあなたに会いに行きます。